ニーズ

 

 

 今週、ある取引先の開発部門の方々がご来社されました。
アテンドで同行された調達部門の方を除いて3名、技術部門の次長さんや設計部門のエンジニアの方など・・・
用向きは当社で使用している機械の運用についてや使い勝手、あるいは「こんなこと出来たら良いなぁ」みたいな要望などのヒヤリングです。
何社か訪問しているようで、今後の開発に向けて参考に出来ることがあれば・・・とのことでした。

 時間にして小一時間、その後は工場に移動して、実際に機械のある現場の方も見学して頂きました。
そういえば随分前の話ですが、別の取引先の方々も当社の機械が見たいという事でご来社されたこともあったなぁ・・・
もう10年くらい前の話ですけどね。
その会社さんは設計部門の方たちだけでなく組立ての方々も同行され、カバーを外して機内の写真撮影をしたり、ストップウォッチで何かを測定したり、加工しているところをビデオで撮影したりしていたっけ。。。

 そりゃあ他のメーカーの機械のことを知りたいのは当然ですよね。
今はどうか知りませんが、以前は自動車メーカーも競合メーカーの新車を秘密裏に購入して、バラシて研究していたなんて話も聞いたことがあります。
 まあユーザーである私たちとしては、そうやってメーカーさんたちが切磋琢磨して、より良いモノを世に出して貰えるのであれば、それはそれで良いことでもありますからね。。。

 

 

 付加価値

 開発部門の方々とお話する中で「機械の加工スピード」の話になった際、
「私たちの業種の場合、これ以上の高速化は必要ないと思います」
とお話させて頂きました。
 機械での加工で完了してしまう単一工程の製品ばかりやっている「ジョブショップ」的な業種であれば、恐らく加工スピードは速ければ速い程良いのでしょうが、私たちの造る製品は鉄板を切って曲げて溶接をして、時には塗装やメッキをして組み立てたりするものがほとんど。
そうすると、その一部の工程だけが高速化してもラインバランスが崩れてしまうだけなんですよね・・・
 そういう意味で、
「よく冷える冷蔵庫は要らないんです・・・」
という話をしました。

 私の周囲で「冷蔵庫の冷却能力」に不満を漏らす人はいません。
もちろん私自身も、そう感じたことは一度も無いです。
だって、中の食品が傷まない程度に冷やすことが出来れば、冷蔵庫の機能としては充分ですよね?
 敢えて冷蔵庫に求めることがあるとすれば、大容量、コンパクト、抗菌・消臭、デザインなどでしょうか・・・
最近は庫内にカメラが付いていて、外出先から中が確認できるなんてものもあるみたいですが、それも便利かもしれません。。。
何れにしても「よく冷える」ことに、あまり価値は無いと言えるのではないでしょうか。

 顧客の困りごと、つまり「ニーズ」とのミスマッチです。
言い換えると「ニーズを叶える」ことが出来るから、顧客はお金を払ってそれを買う。
逆にそこに価値を見出せないのなら、その商品は売れないんですよね。

 これは私たち製造業でも当てはまります。
顧客の要求事項に合致しているのであれば、それ以上のことは必要ありません。
 例えば、私たちの技術があれば、鋼板を鏡のようにピカピカに仕上げることは出来ます。
時間と手間を掛ければ、ピッカピカの板金部品は出来るんです。
でもそうはしません。
外観に有害なキズなどが無ければ、品質基準はクリア出来ているからです。
製作後には塗装などの表面処理も行いますしね・・・
 「今回はいつもよりピカピカにしてきました!」
と言ったって、そこに価値を見出して何十倍もの価格で買い取って貰えるわけでもないですから。。。

 つまり、「お客様のニーズを超えたものを提供すること」が「付加価値」では無いということです。
最高の食材、最先端の器材、通常の何倍もの手間暇をかけて作ったラーメンでも、一杯1万円もしたら誰も食べにはいきません。
だって、誰もそこまでのモノを「求めていない」ですから。
だから付加価値は、ニーズの中に生み出さなければならないのです。

 

 

 NeedsとWants

 

 ニーズを越えた過剰な機能やサービス、クオリティは、「価値」ではなく「ムダ」でしかありません。
でもニーズを満たし、さらにそこに付加価値を感じられなければ、顧客に選ばれることもありません。
ではどうすれば良いのか・・・

 そこでまず、「ニーズ」について考えてみたいと思います。
そもそもニーズとは何なのかというと、「欲求が満たされていない状態」「要望に満たない(不足している)状態」のことです。
例えば『お腹が空いたから何か食べたい』のであれば、「お腹が空いた」状態がニーズ。
「何か食べたい」という方をニーズと理解している方もいると思いますが、こちらはウォンツです。

 つまりニーズは「目的」であり、ウォンツはそれを実現するための「手段」という事になります。
このニーズとウォンツの違いを理解し、そのニーズを叶える中において価値を付加する必要があるんです。

 「ロボット掃除機が欲しい」
ある主婦がそう言っていたとします。
じゃあ旦那さんはロボット掃除機をプレゼントしさえすれば良いのか・・・
 ここで言う「ロボット掃除機が欲しい」はウォンツです。
ではこの場合のニーズとは何かというと「家事の時間を節約したい」ということになります。
「家事の時間を節約したい」というニーズを満たす手段として、「ロボット掃除機が欲しい」というウォンツが生まれている訳です。

 それを分けて考えられれば、そこに付加価値を生み出すことが出来るかも知れません。
なぜなら「家事の時間を節約したい」というニーズを叶える手段は、なにもロボット掃除機に限らないからです。
 例えば家政婦を雇えば、その他の家事もより高いクオリティが期待できるかもしれません。
例えば旦那さんと家事を分担すれば、家事の苦労を共有できて、より多くの協力を得られるかもしれません。
例えばロボット掃除機ではなく食洗器を買った方が、掃除の質を維持しながら、水仕事による手荒れの軽減が出来るかもしれません。

 だからニーズとウォンツを分けて考えなければならないんです。
ウォンツに隠れたニーズを叶える中で、付加価値を生み出さなければなりません。

 

 

 顕在ニーズと潜在ニーズ

 

 ニーズには、顧客がその目的を自覚し、何故それが必要なのかを理解している「顕在ニーズ」と、ぼんやりとした目的の基に何故そうしたいのか、何故それが必要なのかが曖昧な「潜在ニーズ」があります。
そして付加価値を付けやすいのは、「潜在ニーズ」の方。
抽象的で曖昧な「潜在ニーズ」を顕在化、つまり具体化していく過程で、付加価値を付けていくのです。

 例えば顧客から「この商品を10%コストダウンしたい」という打診があったとします。
でもこれはあくまでもウォンツです。
「はい、分かりました。仰せのままに・・・」では、自社の経営を圧迫するだけ・・・
そんな関係性はただの隷属的な下請けに過ぎず、とても「パートナー」と呼べるものではありません。

 そこで「ニーズを掘り下げる」作業が必要になります。
なぜコストダウンしなければならないのか・・・
「経費を見直して、キャッシュアウトを抑えたい」
なぜキャッシュアウトを抑えたいのか・・・
「今期厳しいので、利益を確保したい」

 ここで初めてニーズが顕在化します。
そしてこのニーズを叶えるための方策は、商品のコストダウンだけでは無いはずですよね。
例えばミルクランなどの手法で物流コストを見直したり、工程集約で管理工数やトータルコストを抑制したり、集中購買で資材調達のスケールメリットを生みだしたり・・・
そういう営業活動ができてこそ、当社を顧客にとっての善良なパートナーに位置づけることに繋がっていくんだと思います。

 

 

 なぜ今回こんな話を持ち出したかというと・・・
この4月から、営業部門を強化しようという話になっているからです。

 営業を立ち上げて2年。
今一度役割を明確にし、これまでの営業活動を見直していかなければならない時期です。
これまでは仕事量も多く、当社の営業もどちらかと言うと「受け身」の姿勢でした。
でもこのままじゃいけない。。。

 お客様ともこれまで以上に積極的にコミュニケーションをとって、しっかりとそのニーズに応えられるような提案型の営業活動を展開していって貰いたい。
そうする事で、お客様とさらに発展的な信頼関係を築いていって貰いたいと思っています。