
耳慣れた「アクシデント」という言葉を「事故」と解釈するならば、「インシデント」とは「事件」という意味になります。
事故にまでは至らなかった事件(トラブル)をインシデント、事件が発展して問題が大きくなってしまった事故がアクシデントという訳です。
例えば乗っている乗用車に何らかの異常が発生してしまったとしたら、その状態がインシデント、その異常によって大きな被害を出す様な大事故を起こしてしまった場合がアクシデントということ。
つまり、「アクシデント」の前には「インシデント」が起きている・・・ということです。
昨年の夏、このブログでも触れましたが、幼稚園の送迎バスに置き去りにされた園児が、熱中症で亡くなってしまうという痛ましい出来事がありました。
そこで考えるのは、「果たしてその一件が本当に”初めて”だったのか」ということです。
つまりその予兆、私は絶対にあったと思うんですよ。
短時間であっても、過去に降車の確認をせずに数分間閉じ込めてしまったことが実際にあったんじゃないかって。。。
もっと言えばその運転手(園長)や同乗していた保育士が、日常的にルールを守らなかったり確認が疎かになって、大きな被害が出る程ではないにしても小さなミスを繰り返していたんじゃないか・・・
そう考える方が自然なわけです。
大きなアクシデントの前には、必ず小さなインシデントが起きている。
だから大きなアクシデントを未然に防ごうとするのであれば、インシデントの段階で手を打つ必要があるんです。
ハインリッヒの法則

労働災害の話なんかでよく出てくるのが、この「ハインリッヒの法則」です。
どういうことなのかは、上の図で一目瞭然ですよね。。。
「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、更にその背後には300件の小さな異常(ヒヤリ・ハット)がある」というもの。
因みに図にある「ヒヤリ・ハット」とは、危険なことは起こったものの幸いにも被害には至らなかった事柄のことで、ミスなどでヒヤリとしたり、ハッとしたりするものを指しています。
このハインリッヒの法則は、アメリカの保険会社で安全技術者として働いていたハインリッヒさんが、膨大な量の事故事例を分析して導き出した、労働災害の構造について提唱されている法則です。
そしてこの法則でも「大きな事故は、小さなミスや異常が積み重なって引き起こされるものだ」と言っています。
言い換えれば、この300件もあるとされるヒヤリ・ハットは、先述の「インシデント」に該当するということです。
そりゃあ大きなことがいきなりドカンと起こる事も無くはないでしょうが、事の多くは(件数はさて置き)この法則に則っていると、私自身も体感的に感じています。
それに、なにもこれは労働災害に限ったことではありませんからね。
例えば仕事でなにか大きなミスを犯してしまった時。
振り返ってよく考えてみると、そこに至るまでにいくつもの小さなミスが積み重なっていたりすることありません?
或いはそれと似たようなことが過去にもあったが、偶然問題が大きくならずに”未遂”で済んでいた・・・なんてこともあるんじゃないでしょうか?
そんな時、後になって必ず思うはずなんですよ、
(問題が大きくなる前に、小さなミスを潰しておけばよかった・・・)
(事が重大化する前に、未遂に終わった前回の時点で手を打っておけば・・・)
なんて具合に。。。
芽を摘む

インシデントの段階で対処するということは、問題の「芽」を摘むということです。
大きな事故やアクシデントを未然に防ぐためには、そうなり得る要素を前もって潰しておくことで、それが起きる可能性を低く抑えることが出来ますから。
例えば乗用車の車検や法定点検なんて正にそういう目的ですよね。
壊れて事故を起こしてしまえば、それこそ人命にかかわる重大事案と化してしまいます。
だから大きなアクシデントが起きる前に、小さな異常が無いかを確認して、異常があれば前もって処置しておこうとするものです。
私たちの職場で言えば、分かり易いのは生産設備の日常(使用前)点検などでしょうか。
鉄板を切ったり曲げたりするような機械ですから、やはり事故が起これば重大な被害が発生する可能性もあります。
また同時に加工上もそれなりに「精度」が必要となりますので、機械が正常な挙動をすることが出来なければ、その精度も維持することが出来ずに不具合が発生してしまいます。
「異常な振動や異音、異臭などは無いか」
「可動部の清掃の実施」
「非常停止ボタンの動作確認」
「スイッチ、ケーブル等の損傷は無いか」
などなど、日常的な点検項目としてはそんなに大したものではありません。
毎日やっていると、
(昨日大丈夫だったんだから、今朝だって大丈夫でしょ?)
(こんなの毎日やる必要あるの?)
どうしてもそんな風に思いがちです。。。
だけどそれが、いつでも起こり得る大きな災害や不具合を未然に防ぐ為の第一歩ですからね。
凡事徹底、当たり前のことを当たり前に、愚直にやり続けなければなりません。
大きなトラブルやアクシデントが起きてからでは、もう遅いんです。
異常は小さなうちに潰しておいた方が”楽”でもあります。
事態が大きくなればなるほど、その対処に掛けるエネルギーも大きくなってしまうものですからね。
だから早期に異常を発見して、少しでも早く対処しておくに越したことはありません。
例えば「生産遅延」なんかにしてもそうです。
事態が悪化すれば、後工程や取引先、最悪お客様にまで影響が及んでしまうかも知れません。
だからこそ、少しでも計画に対してズレが生じてしまったら、直ちに手を打つ必要があるんです。
それを放置してしまっていたら、事がどんどん大きくなって、取り戻すのも簡単にはいかなくなってしまいます。
大事なのは
「小さな異常も検知するアンテナの感度」
「事態の影響が波及する大きさや範囲を的確に見極める視野と思考」
「異常の原因となる要素を効果的に潰す術」
「被害を最小化すべく、直ちに手を打つスピード感」
です。
ちょっと最近(感度が低いなぁ・・・)とか(スピード感が無いなぁ・・・)なんて思ってしまう場面がチラホラあったりしたんですよね。。。
大きなアクシデントになってしまう前に、小さなインシデントの段階で手を打ってしまいましょう。
小さな異常はあちこちに転がっています。
「次の会議で・・・」とか「また今度・・・」なんて言ってる場合じゃないですよ。
それを見つけたら、すぐに手を打つ必要があるんですからね。