「師」

 

 

「ちょっと相談したい品物があるけど、アンタ今日は忙しいか?」
昨日の朝、私が勝手に「師」と仰いでいる大先輩からの電話。
「いえ、今日は会社にいますので、いつでも大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあ図面持って昼過ぎに行くな!」

 齢78、もうすぐ創業60年を迎える板金屋さんの創業者、T会長です。
知り合ったのは十数年前、「愛知県精密板金工業会(現 愛知県シートメタル工業会)」の会合です。
機械メーカーの営業のSさんが、
「こちら沖壱産業の社長さんです。いろいろ面倒見てあげて下さい。」
「お、そうか。分かった!」
といった感じで紹介されたのがきっかけでした。

 そのSさんは既に定年退職されていますが、Tさんとはその後もよく会合の後に一緒に飲みに行ったり(Tさんはお酒は飲みませんが・・・)、近くにお越しになった時には会社の方に顔を出してくれたりしています。
しかし最近はTさんの会社も代替わりされ、会合の方には新社長が出席されていますので、Tさんとはなかなか会えずにいました。

 「元気でやっとるか!」
開口一番、年齢を微塵も感じさせない大きな声と共に私の部屋にやってきたTさん。
「まあボチボチやってます」
そんな感じで久々の面談。
でも肝心の仕事の話は冒頭10分程度・・・
あとはほとんど世間話でしたが、気付けば2時間近く経ってしまっていました。。。

 

 

 「こっち側」

 

 Sさんから紹介された後、工業会の会合ではよく声を掛けて頂く様になりました。
といっても
「最近どうだ?忙しくやっとるか?」
という具合の立ち話程度。
私としても自分の父親よりも年上の方ですし、そうそうフランクに話しかけられるような感じではありませんでした。

 そうして会えば立ち話をするくらいの関係がしばらく続いた頃のことです。
その日の工業会もそこそこ盛り上がり、宴もたけなわでそろそろ締めかな・・・といった辺りで、機械メーカーの当時当社の担当だった営業さんから
「この後若手の皆さんと二次会行きますけど、社長も一緒にどうですか?」
と声を掛けられました。

 その当時の「若手」の中に入っても、多分私が一番の年少者。
(どうしようかな・・・)
そう考えていたところ、
「アンタこの後暇だろ?ちょっと付いて来い!」
そう言って話に割って入ってきたのがTさんでした。

 問答無用。。。
気付けばTさんの行きつけのスナックで、私とTさん、そしてTさんと同年代の社長さんの3人で飲んでいました。
「Tさんありがとうございます。さっき誘われた飲み会、正直あんまり気が乗らなかったんですよ・・・」
実はその前に別の若手経営者の異業種交流会があり、あまりの”しょうもなさ”に私は辟易としていたところでした。
その交流会の参加者の方々は、つまらない見栄の張り合いや付いていけない感じの変な悪ノリ、それに口を開けば取引先や従業員の悪口ばかり言ってるような感じだったんです。。。

「そうか、まあアンタにはアッチは合わんと思うぞ」
「え?なんでですか?」
「アンタはこっち側な気がするんだわ」
「???」
「なんとなく、アンタは創業者の匂いがするんだよな・・・」

 自分ではよく分かりません。
でもそれ以来、工業会の後はTさんとスナックに行くのが定例となりました。
親子ほど年が離れてはいますが、その分Tさんからは色々なことを教えて貰っています。
「会社っていうのはな・・・」
「経営者っていうのはな・・・」
なんて具合です。

 

 

 誰が為

 

 「アンタは何の為に仕事しとるんだ?」
ある時、ついさっきまでご機嫌にカラオケを歌っていたTさんが、突然真面目な顔で質問してきました。
「どうしたんですか、急に・・・」
「いいから答えろよ」
「んんん・・・やっぱりお客さんに良い製品を届けて、喜んでもらう為ですかね?」
「そうか、そりゃあ従業員は可哀そうなもんだな・・・」
「え!?どういうことですか?」
「そんなんじゃ、従業員はアンタの顔色を窺って仕事をするようになってしまうだろう?」

 もう今から十数年前の出来事ですが、今でもハッキリとその時のことは覚えています。
「モノを作るのは従業員だろう?だったらお客さんの為に仕事をするのは従業員だ」
「そうですね。だから私自身も・・・」
「いや、だからな、それじゃ駄目なんだよ!」
「???」
「従業員がお客さんの方を向いて仕事をする為にも、アンタは従業員の為に仕事をしなきゃならん」
「・・・」
「経営者はお客さんの為じゃなく、従業員の為に仕事をしないかんのだわ!」

確かに、Tさんは日頃から
「社員は家族同然」
「社員を大切にせにゃいかん!」
と口癖のように言っており、自身の会社でもそれを体現しておられました。

 当時、自分勝手な言動で自己中心的な仕事の仕方をするスタッフや、私の前では恰好良いこと言う割に言ってることとやってることが全然違う様なスタッフがいて、(どうしたもんかなぁ・・・)なんて考えてもいたんです。
「確かにそうですね。ちょっと考え方を改めます・・・」
私が仕事に対するベクトルを変えるきっかけになる出来事でした。。。

 

 

 

「さっきよ、違う方の工場に行ってまったんだわ・・・そしたらわざわざ対応してくれた人がこっちまで案内してくれてな、話してもしっかり話が出来るし、アンタんとこは良い人が揃っとるなぁ」
「リフト乗っとる人とかすれ違った人もみんな挨拶してくれるし、教育の行き届いた良い会社になっとるなぁ・・・」
帰り際、Tさんはそう言って笑っていました。
「ありがとうございます!」
そう言う私に笑顔で一瞥して、Tさんは帰られました。

 

 まだ道半ばですが、少しずつ会社が変わってきたのも実感できています。
Tさんがあの時教えてくれたこと、私なりに理解してこれからも頑張っていくつもりです。

 私をちゃんと叱ってくれる人、間違っていれば「違う!」と教えてくれる人は、なかなかいないものです。
そういう意味で、Tさんは私にとって「師」なんですよね。
だからまた、たまに近くに来た時には寄っていって下さい。
私もTさんに叱られない様に、しっかりやっていきたいと思います。。。

 

 

 

 

 

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